AI時代の大逆転 / 第09話
PART 02 · 仕事と社会

国の豊かさを決める条件も変わる

第09話の扉絵
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ある国の若者が、海外企業から翻訳や資料作成の仕事を受けているとする。依頼する側にとっては、質と価格の釣り合いがよい。受ける側にとっては、国内だけでは得にくい収入につながる。こうした仕事の条件を、AIはどのように変えるだろうか。

もし同じ作業をAIで安く処理できるようになれば、安い人件費を生かした受託の強みは小さくなるかもしれない。長い時間をかけて身につけた技能でも、注文する側の選択肢が増えれば、仕事の値段は動く。国境を越える仕事にも、その変化は及びうる。

一方で、同じ若者がAIを使い、これまで受けられなかった仕事を引き受ける可能性もある。外国語でやり取りし、設計の案を作り、事業に必要な知識を学ぶ。外から頼まれた作業だけでなく、地域で必要とされるサービスを、自分たちで考える道も開ける。

私は、この二つを一緒に見たい。AIによって仕事を失う危険もあれば、従来なら高額な専門家や大きな組織が必要だった仕事へ進む機会もある。途上国が一気に豊かになるとも、安い労働力の価値がなくなるとも、一つの筋書きだけでは語れない。

世界銀行の2025年の報告は、AIを生かす土台として、電力や通信、計算資源、地域に合ったデータ、人の技能を重視している。画面の向こうに優れた道具があっても、安定して使えなければ暮らしには届かない。使える言語や内容も重要になる。

例えば、農業の情報を調べられても、地域の土や気候に合わなければ役に立ちにくい。商品を海外へ紹介できても、代金を受け取り、品物を届ける仕組みが要る。知識を得る入口が広がるほど、知ったことを実行へ移す足元の条件が見えてくる。

これは、豊かな国なら自動的に解決済みという話でもない。設備や資金があっても、新しいやり方を試すまでに時間がかかれば、その力を使い切れない。逆に、従来の仕組みが十分になかった場所では、古い手順をそのまま再現せずに始められる場合もある。

ただ、古い仕組みが少ないことは、それだけで有利とは言えない。教育を受ける機会や相談相手が乏しければ、道具を選ぶことも難しくなる。追いつくための段階を飛び越えられるかどうかは、通信や学びの機会を誰にまで届けるかという判断にかかっている。

もう一つ、道具の所有にも目を向けたい。AIを使って仕事の効率が上がっても、利用料や基盤からの利益が主に国外へ流れるなら、国内に残る豊かさは違ってくる。便利に利用できることと、そこで生まれた利益を受け取れることは、分けて考える必要がある。

だからといって、すべての国が巨大なAIを自前で開発する必要があるとは思わない。外の技術を使いながら、自分たちの言語や生活に合うサービスを育てる道もある。そのとき、利用条件を交渉する力や、特定の供給元に頼りすぎない工夫も大切になる。

国の豊かさを考えるとき、私は、その国の企業が成長したかだけで終わりたくない。仕事が変わった人に学び直す時間はあるか。地方にも使える環境があるか。生まれた利益は暮らしに回るか。国全体の数字がよくなっても、安心して暮らせない人は残りうる。

AIは、国の順位を一度ひっくり返して終わる革命ではないのだと思う。どんな力を持ち、誰が使えて、その成果をどう分かち合うのか。選択の積み重ねで、強みも弱みも変わっていく。これまでの位置を、そのまま将来の位置だと決めつけないことが必要になる。

そして、この変化に備える学びは、一部の技術者だけのものにはできない。自分の暮らしに必要な情報を読み、数字を確かめ、考えを伝える。その土台を広く持つことは、新しい機会へ進む力にもなる。AIが答えを出す時代に、私たちは何を学び直すのだろうか。

参考資料

世界銀行「Digital Progress and Trends Report 2025: AI Foundations」

https://www.worldbank.org/en/publication/dptr2025-ai-foundations