AI時代の大逆転 / 第03話
PART 01 · 未来と「強さ」

最強の武器が通じない、イプセンの古城

第03話の扉絵
ほかの回を読む全18話の目次を開く

強い敵に勝てないとき、まず何をするだろうか。ゲームなら、経験を積んで仲間を育てたり、もっと強い武器を探したりする。仕事でも似たところがある。知識を増やし、資格を取り、専門性を磨く。昨日より強くなれば、明日はもう少し先へ進める。そう考えるのは自然である。

ところが、その進み方がうまく働かない場所がある。『ファイナルファンタジーIX』に登場する「イプセンの古城」だ。ゲームをしたことがない人のためにいうと、これは仲間と旅をし、敵と戦いながら物語を進めていく作品である。武器の選び方は、戦いを左右する大切な要素になる。

ふだんは、攻撃力の高い武器が頼りになる。苦労して手に入れた一本で、前は倒せなかった敵を倒す。装備が強くなることは、旅の進歩を実感できる出来事だ。最初に使っていた武器は、役目を終えたものとして、持ち物の奥にしまわれているかもしれない。

しかし、この城では、通常攻撃に特別な仕組みがある。攻撃力の低い武器のほうが、かえって有利に働くのである。強いと思っていた武器を使い続けても、期待したように敵を傷つけられない。そこで、初めのころに使っていたような弱い武器を、もう一度手に取る意味が生まれる。

この仕組みは、あらゆる能力を逆転させるものではない。魔法や防具まで、何でも弱いほどよくなるわけではないし、何も考えなくても勝てるわけでもない。変わる範囲を見極め、その条件に合った戦い方を選ぶ必要がある。そこまで含めて、この古城はおもしろい。

もし、ルールの変化に気づかなかったらどうなるか。「まだ武器が弱いのだ」と考え、さらに強い武器を探したくなるだろう。努力は続けている。やる気もある。それなのに成果が出ない。足りないのは頑張りなのか、それとも頑張る方向を決めるための理解なのか。

AIが仕事に入り込むときにも、この問いが大切になると私は考えている。たとえば、情報を集めて整った資料にする作業を、AIが助けられるようになったとする。同じ資料を同じ時間でつくれる人が増えれば、つくれること自体の希少性は、以前とは変わってくる。

そのとき、資料をもっと速く、もっと美しくつくる力を磨くことに、意味がなくなるとは限らない。ただ、顧客が困っている場所が別に移っている可能性はある。資料はできても、何を決めればよいかわからない。案は揃っても、現場で試せない。残る難しさを見てみたい。

逆に、資料づくりは得意でなくても、現場で何が起きているかをよく知る人がいる。その人がAIを使って状況を整理し、改善案を伝えられるようになれば、経験の使い方が変わるかもしれない。今まで目立たなかった力が、別の力と組み合わさることで、役に立つ場面が広がるのである。

もちろん、専門性の高い人がAIを使い、さらに力を伸ばす場合もある。社会全体が一斉に逆転し、これまでの強者が必ず負ける、といっているのではない。どの作業の、どの条件が変わるのか。それによって、自分の能力の生かし方を考え直す必要があるという話だ。

ここで、過去の努力まで否定する必要はない。古城にたどり着くまでには、それまでの装備も経験も役立っていた。新しい場面に入ったからといって、旅そのものが無駄になったわけではない。積み上げたものを持ちながら、いま何を使うかを選び直せばよいのである。

難しいのは、うまくいった経験ほど手放しにくいことだ。自分を支えてきたやり方には、理由も愛着もある。だからこそ、ときどき立ち止まりたい。もっと強い武器が必要なのか。それとも、今いる場所での強さを、別の物差しで見直すときなのか。

イプセンの古城は、努力をやめるためのたとえではない。努力を届かせるために、ルールを見るという話である。そして、価値が変わるのは武器だけではない。同じ札を持ったまま、強い側と弱い側が入れ替わる。トランプの「革命」には、もう一つの手がかりがある。

参考資料

FF9「イプセンの古城」の通常攻撃と武器の仕組み

https://cour89.com/ff9/maps/ipsens_heritage.php