AI時代の大逆転 / 第05話
PART 02 · 仕事と社会

ホワイトカラーとブルーカラーの境界が揺れる

第05話の扉絵
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頭を使う仕事を身につければ、長く安定して働ける。そんな安心感もあっただろう。ところが、文章を読み、情報を整理し、案をつくるAIが現れたことで、知的な仕事ほど安心だという見方を、そのまま続けてよいのかが問われ始めている。

ここで、ホワイトカラーとブルーカラーという言葉を使ってみる。前者は事務や企画など、後者は製造や建設などの現場の仕事を指すことが多い。現場でも判断しているし、机の上の仕事にも身体や人との関わりがある。もともと、きれいに二分できるものではない。

たとえば、営業の仕事を一つの塊として見ない。顧客について調べる、提案資料をつくる、話を聞く、条件を調整する、仕事を進める。AIが助けやすい部分と、そのまま任せにくい部分が混ざっている。一部の作業が速くなっても、営業という仕事が丸ごと消えるとは限らない。

設備を修理する仕事なら、故障の情報を調べ、過去の記録を整理する場面ではAIを使えるかもしれない。一方、現物の状態を確かめ、狭い場所で手を動かし、安全に作業するには、別の条件がある。画面の中で説明ができることと、その場で作業を終えられることには距離がある。

この距離は、現場の経験を持つ人の強みになりうる。ただ、身体を使う仕事なら永久に変化しない、ということでもない。機械やロボットの導入、作業の標準化によって変わる部分はある。AIとロボットを一括りにせず、何がどこまでできるのかを、仕事ごとに見る必要がある。

国際労働機関の2025年の分析も、生成AIの影響を、職業を構成する作業から捉えている。事務職などへの影響を示す一方、人が関わる作業が多く残るため、仕事全体の置き換えより、仕事内容の変化が起きやすいとしている。影響を受けることと、職業がなくなることは違う。

能力の差が縮む可能性もある。ある企業の顧客対応業務を調べた研究では、AIの支援による生産性の改善は、経験の浅い人ほど大きかった。これは、すべての仕事で同じことが起きるという証拠ではない。それでも、熟練者のやり方を学ぶ入口が変わりうることを示している。

一方、専門知識を持つ人ほど、新しい道具を生かせる場面もある。何を頼めばよいかを考え、説明の抜けや、現実に合わない前提に気づけるからだ。初心者を助ける力と、熟練者をさらに助ける力は、同時に働きうる。どちらが強く出るかは、仕事の内容と道具の使い方によって違う。

「では、AIの答えを確認する側に回ればよいのか」。それも一つの役割だが、その確認自体をAIが助ける範囲も広がるだろう。今、機械に難しいことを一つ見つけて、そこに一生の安心を置くのは難しい。必要なのは、仕事のどこに難しさが残っているかを見続けることだ。

現場の人が、AIで記録を整理し、改善案を説明できるようになる。事務の人が、作業の負担を減らして、顧客の事情を理解する時間を増やす。そうした変化を考えると、頭か身体かという境界よりも、異なる力をどう組み合わせるかに、新しい可能性が見えてくる。

では、現場の仕事の給料が、必ず高くなるのだろうか。そこには、必要とする人の数、働ける人の数、価格、契約、交渉なども関わる。自動化しにくいことだけで、高い報酬が決まるわけではない。仕事に必要な能力と、その仕事の値段は、分けて考える必要がある。

自分の手札を見直すなら、まず一週間の仕事を書き出してみるとよい。時間を使っている作業は何か。誰かが困っている場面はどこか。AIに助けてもらうと、どこへ力を回せるか。職種の名前だけで将来を占うよりも、自分が次に試せることが、見えてくるはずだ。

ホワイトカラーが負け、ブルーカラーが勝つ。その一枚の図で安心することはできない。変わっていくのは、仕事の中身と能力の組み合わせである。そして、能力が変われば収入も同じように変わるとは限らない。その関係を考える手がかりが、スポーツの世界にある。

参考資料

ILO「Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure」(2025年)

https://www.ilo.org/publications/generative-ai-and-jobs-refined-global-index-occupational-exposure

参考:Brynjolfsson, Li, Raymond「Generative AI at Work」(2025年刊行)

https://doi.org/10.1093/qje/qjae044