AI時代の大逆転 / 第01話
PART 01 · 未来と「強さ」
お金の不安が消える未来は来るのか

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もし、生活のために働く必要がなくなったら、あなたは何をするだろうか。少し長く眠る。家族と過ごす。旅に出る。ずっと気になっていたことを学ぶ。考え始めると、普段は脇に置いている願いが、いくつも浮かんでくるかもしれない。
私はこれまで、財産の価値を、人生の選択肢を広げるものとして考えてきた。残高が増えることに加えて、気の進まない仕事を断れる、好きなことを試せる、大切な人に時間を使える。そうした余地が生まれることに、お金を持つ意味がある。
その選択肢を、社会全体で広げられるかもしれない。AIをめぐる議論には、そんな期待がある。イーロン・マスクは2017年、AIやロボットによる仕事の変化を背景に、何らかのユニバーサル・ベーシックインカムが必要になるという考えを示した。
ベーシックインカムとは、所得や働いているかどうかにかかわらず、すべての人に定期的に現金を給付する仕組みである。AIが多くの仕事を担うなら、給料を得ることだけに生活を結びつけず、生産された豊かさを分かち合う方法を考える必要がある。
さらにマスクは、「ユニバーサル・ハイ・インカム」という言葉で、より豊かな未来を語っている。2024年のFIIの対談でも、AIやロボットによって財やサービスを供給する費用が下がり、人々が欲しいものを得られる世界を描いた。
これは、給付額や財源、開始時期まで決まった政策ではない。技術が進んだ先に、どのような社会が可能になるかという未来像である。それでも、生活のための労働から解放される可能性は、私たちが働く意味や学ぶ目的を考え直す、十分に大きな問いになる。
ここで、二つのことを分けて考えたい。社会がより多くのものを生み出せることと、一人ひとりがお金の不安から自由になることだ。AIを動かす設備や仕組みを誰が持ち、そこから生まれた利益を誰が受け取るのか。豊かさの行方は、その仕組みにも左右される。
生産性が上がれば、価格が下がって暮らしが楽になるかもしれない。一方で、自分がしていた仕事の値段が下がることもありうる。企業の利益が増えることと、働く人の給料が増えることも、同じではない。技術の可能性と、暮らしの現実をつなぐ間には、いくつもの判断がある。
もう一つ気になるのは、時間である。仮にその豊かな未来が実現するとして、私たちはそこまでをどう生きるのか。十年先の社会を語っている間にも、来月の生活費は必要になる。仕事の変化と、それを支える制度の変化が、同じ速さで進む保証はない。
だから私は、未来への期待を持ちながら、そこへ渡る時間に目を向けたい。これまで頼りにしてきた専門性や会社の看板が、これからも同じように自分を支えてくれるのか。何を学び、どんな備えを持てば、変化のなかでも選択肢を保てるのかという問いである。
その答えを、ひたすらAIより優秀になることに求めるのは苦しい。使える力は借りればよい。そのうえで、自分は何を大切にし、どんな時間を生きたいのかを考える。道具が賢くなるほど、その力を何に使うのかという問いが、自分の側に返ってくる。
お金の不安が小さくなったあとにも、自分の人生を選ぶ営みは続く。何をして遊び、誰と関わり、何に心を動かされるのか。働きたい人は働けばよいし、何かの成果に結びつかない時間を楽しんでもよい。自由になった先の暮らしに、一つの正解を置く必要はない。
お金の不安が消える未来は来るのか。その可能性を考えると同時に、今の人生を、未来への待合室にしないことが大切だと思う。この連載では、AIがこれまでの「強さ」をどう変えうるのかをたどりながら、自由に生きるための新しい学びを考えていきたい。
参考資料
World Governments Summit(2017年)
FII Institute「FII 8 Executive Report」(2024年、p.60)
https://fii-institute.org/wp-content/uploads/2024/11/FII-8-Executive-Report.pdf
前田英志「自由の五資産① 財産とは、お金ではなく選択肢である」
